お墓参り
脚が悪くなり、動けなくなってしまった祖母の代わりにお寺へお墓参りに行った。
お彼岸でもないのに頻りに私を遣いに出そうとする祖母の考えが解らないけれど、断る理由もないので参じた次第だが、どうにも一帯が騷しくていけない。近所の家の者か知らないけれども、子供が幾人もそこいらをうろうろしている。お行儀が悪いので気にかかるが、自分の用事をさっさと済ませてしまえば良い話だから、私は家の墓まで行き、黙って周りの掃除をした。
仕舞いに柄杓で墓石の頭に水をかけ、何の気なしに掌でぺんぺんと叩いて見た途端子供のひとりに脛を蹴られた。吃驚して、
「何だよお前」と云った所、今度は砂をかけられた。
住職の奥さんが出て来て子供の首根っこを掴むと、ひょいと持ち上げて奥へ戻って行った。
合点の行かないまま納骨堂へ入って、線香を上げた。するとまたさっきの子供が来て、何だよお前と云った。たちまちどこからか同じ様な子供が五六人集まって来て、皆々揃って人の顔を見詰めている。
「小浜のイトエんとこの孫だよ」と応えて見た所、テル美はと云うので、
「テル美は脚が悪いから家で寝てる」
別の子供が、来られんのかと云った。
「うん」
また別の子供が、なら食っちまおうかと云うなり大口を開けた。その開き方が甚だしく、耳の辺りまで裂けている。中にはちいさく尖った歯が幾つも並んでいた。食われたくなぞないし、こわいから、
「食っちまおうか、て、お前ら、しばくぞ」と凄んで見せるが、子供らは各々長い舌を出して唇を舐めたり、顎を動かして歯を鳴らしたりし出した。
その内に誰かが、墓場で三回転ぶと、と云った。
別の誰かが、むじなに取られて海驢の番、と云うと、皆がげたげたと笑った。
何の事やらさっぱり解らないが、どうやらこちらを馬鹿にしているらしい。段々と腹が立って来て、本当にしばいてやろうかと考えていると、「まあ、まあ。あんた達、未だ居たの」と云いながら住職の奥さんが来て、持っていた箒で払うと子供らはどこかへ散り散りになった。そうしてこちらを向くと、
「ご免なさいね。どちら様でしたか知ら」
「小浜のイトエの所の孫です」
「まあ、まあ。大きくなって。偉いねえ。お祖母ちゃんはお元気か知ら」
「ちょっと今脚が悪くって」
「あら、まあ。ちゃんと孝行して、偉いねえ」
ほほほと云って笑っているので、
「さっきのあいつらは、この辺の子なんですか」
「あれはねえ、気にしなくって良いからね。私もよく解らないんだけど、多分、山から来るんじゃないか知ら」
そうしてお寺を後にする際に、高い所で風が吹くらしく、山の上からこちらへ向かって、木々の鳴る音が段々と降りて来るのを聞いた。少しずつ辺りの気配が呑まれて行く様だった。
家へ帰るなり「あんた、ご先祖様に粗相したね」と祖母に膝をぴしゃりと叩かれた。(了)