BOY MEETS GIRL

 登場人物

 女
 男
 侍女(一)
   (二)

 舞台、屋敷の高所にある一室。身内から出た狂人を軟禁する為の離れであるが、内装の趣向や調度品には贅が尽くされている。上手に出窓。観音開きの大きなものが一つあるのみで、鉄格子が嵌め込まれている。下手に重々しく分厚い扉。外から鍵が掛けられている。
 女、高い身分を思わせる衣装。器量は並で良し。歳は二十歳に満たない。
 男、真白の病衣。中性的な美男子とすること。歳は女に近い。

(女、開け広げた窓の縁に座り、ぼんやりと外の景色を眺めている。時折髪を微風が撫でて行く。)
 侍女 (部屋の外から声。)お嬢様。お嬢様。
(間。女は微動だにしない。)
 侍女 お嬢様。お嬢様。お目覚めでいらっしゃいますでしょうか。
(間。女は微動だにしない。)
 侍女 お嬢様。お嬢様。失礼致しますわ。若し扉の傍にいらっしゃるなら、お離れになって下さいまし。
(扉から掛け金を外す音。続いて音もなく扉は開き、侍女が入って来る。)
 侍女 まあ。お目覚めでいらっしゃいましたのね。お早うございます、お嬢様。今日は良いお天気ですわ。さぞかし気持ちの良い事でしょう。
(間。二人共微動だにしない。)
 侍女 (にこやかに、)ご主人様のお計らいで、新しいお友達をご用意させて頂きました。お気に召されませんでしたら、直ぐにこちらで処分致しますので、先ずはどうぞ、ご覧下さいませ。
(扉の奥から、別の侍女が台車を押しながら入って来る。台車には男が載っている。隻眼。右腕を除く四肢が欠損している。)
 侍女 遠くの国からお買い付けなされたそうですわ。可愛らしいでしょう。さ、あなた、そっちを持って。(男の両脇を二人の侍女が抱え、)せえの、よい、しょ。こちらの椅子に座らせて置きますわね。それでは、私共はこれにて失礼致しますわ。
(侍女は部屋を出て行き、扉が閉じられる。続いて掛け金の閉められる音。部屋には女と男が取り残される。暫く間。女は微動だにしない。男は辺りを見回している。)
 男 ねえねえ。
(間。女は微動だにしない。)
 男 ねえねえ。あれ。ねえねえ。えらいここ、豪華な部屋やね。とんでもない金持ちなんじゃないの。あんた、あのおっさんの妾か何か? ああ、娘?
(女、初めて下手の方へ振り返り、無表情に男を眺める。)
 女 手足はどこへ置いて来たの?
 男 デブババアに刺身にされたんよ。
 女 そっちの手は残ってるじゃない。
 男 手にあれこれさせるのが好きなのもおったからね。
 女 随分若いみたいね。幾つ?
 男 覚えてない。
 女 今まで何してたの?
 男 おもちゃ。
 女 (優しく微笑み、)これからもおもちゃなのね。健気だわ。それで、おもちゃになる前は?
 男 テロリスト。
 女 (嬉しそうに、)立派な人だったのね。(男の傍まで行き、頬に手を伸ばす。)残ったこっちの眼は、私が貰っても良いか知ら。(親指を男の眼の縁に沈める。)
 男 良いよ。
(間。女、指に少しずつ力を込めて行く。)
 女 あなたの眼の中、温かいわ。痛くないの? 真赤になってるわよ。
 男 痛いよ。
 女 涙で指がびしょびしょだわ。それなら痛がれば良いのに。
 男 一々痛がってたらキリないもん。
 女 ……つまんない人ね。(手を引っ込める。)
 男 そう言うのがウケてたんだけどな。
 女 でも顔はきれいなままなのね。とってもきれいよ。お人形みたい。
 男 イケメンも結構辛いんよ。顔以外のとこは皆どうでも良いみたいだし。
 女 その気持ち、ちょっとだけ分かるわ。
 男 俺の片目をくり抜いたおっさんは、えらい後悔してたなあ。もっとゆっくりやれば良かった、つって。
 女 そうね。途中が良いんだわ。後も先も駄目ね。そのおじ様も、途中がずっと続くのを今も夢に見てる筈よ。新しいあなたを創る為の儀式。まっさらの紙粘土に初めて指を埋めた瞬間の確信よ。終わってしまえば何もない。目玉の取れたあなたが居るだけ。
 男 変態の考える事はよく分からんけど。
 女 自分がまともだって思ってるのね。とんだ恥知らず。
 男 まともだと思うんだけどなあ。
 女 私は狂ってるわ。
 男 やっぱそうなの?
 女 自覚してるのよ。だから、私は狂ってるけど、あなたに比べれば大分まともだわ。だって自分の事を知っているから。あなたは知らない。知らないのに知ったつもりになってるのよ。可哀想だけれど、可愛いわ。
 男 (傍白。)面倒臭い女だなあ……。
 女 何か知ら?
 男 あ、いや。飴ちゃん食べる? 目ん玉くり抜いたとこに入っとるんやけど。
 女 いらない。ねえ、外にはどんな事されたの? お話して頂戴。
 男 うん? 色々されたよ。……うーん、背中の皮剥がされたり、歯あ全部抜かれたり。あ、今は入れ歯しとるけん。(口をもごつかせる。)
 女 外には?
 男 金玉を大根おろしでおろされたり、けつの穴を変な道具で開かれたり。
 女 外には?
 男 (天井の方を向き、)後は……、うんこ食わされたり、べろを縦割りにされたり。ほら。(舌を出して見せる。二股に分かれ、蛇の舌の様になっている。)ああ、一遍、腹を掻っ捌かれて内蔵見せられたんだけど、あん時は流石にもう駄目かと思った。よく考え付くもんだと思うよ。
 女 外には?
 男 外には? ……うーん、後は普通に、鞭でしばかれたり、嬲られたり。
 女 まるで他人事みたいに言うのね。
 男 されちまったもんはしゃあないやろ。
 女 (極めて無邪気な笑顔で、)段々あなたの事が好きになって来たわ。
 男 あらそう。付き合っても良いけど、まだ遊びたいから結婚は考えとらんよ。悪いけど。
 女 結婚なんてしないわ。誰とも。
 男 なら良かった。
 女 ねえ、私、死んで見たいのよ。一緒に死んで見ない? あなたとなら、すんなり死ねそうな気がするの。今まで何遍試したって、出来なかったから。どんな高貴な身分の男性だって、死んだら只の血袋よ。それを見る度、私幻滅しちゃうから。本当は後を追い掛けるつもりだったのに、何でもなくなっちゃうわ。何度も何度も、試したんだけど。みじめで、不潔なんだもの。あなたになら、付いて行けるのか知ら。いいえ、きっと大丈夫。あなたならきっと、お散歩にでも出掛けるみたいに、簡単に死んでくれるわ。ね、良いでしょ。私にお手本を見せて。きれいに死ねるって事、私に教えて。
(女、男の首に手を掛ける。)
 男 (初めて感情を顕わにし、)ちょっと、ちょいまっち。やだやだ、死にたいんなら勝手にしやがれ。俺まで巻き込むんじゃねえ。
 女 見苦しいわ、止しなさい。あなた、そんなになっても未だ生きたいの?
 男 当たり前やろ。
 女 どうして?
 男 どうしても糞もあるか。生きてりゃその内、良い事あるやろ。
 女 ないわよ。自分の身体をご覧なさい。
 男 身体なんぞ関係ないって。こんなんでも結構、気に入っとるんよ。俺は自分の人生が好きなんだよ。
(暫く間。やがて女、力なく両手を垂らす。)
 女 ……呆れた。なんて暢気な人なのか知ら。
(女、窓辺へゆっくりと向かい、縁に座る。そうして外の景色を眺める。暫く間。)
 女 黄色い蝶々が沢山飛んでるわ。きっとあの辺りに死体が埋まってるのね。
 男 (大きな欠伸をして、)あんた、あのまま俺を殺しといても、自分は絶対死なんかったやろ。おおこわ。くわばら、くわばら。
 女 (男の方へ振り返り、)あんな事言って。食事を抜いて貰いましょうか。
 男 え。
(女、再び窓の外へ顔を向ける。澄ました顔。微風が髪を撫でて行く。男、謝罪の言葉を思案しつつ、そわそわとしている。)
――幕――