竹藪

 近くの神社に縊れ鬼が出たと言うので見に行った。竹ばかりが生えている林の奥を歩いているけれど、その様な痕跡などまるで見当たらない。高い所でさあさあと葉の擦れる音が聞こえる。竹で縊れると言う話なぞ聞いた事がないし、お堂や鳥居だろうかと思うと、その様な罰当たりな事をする奴があるかと言う気持ちになって来る。
 明るい日差しが竹と葉の隙間に透かされて地面に点々と丸い光を作っている。改めて辺りを見渡すと色々のものが林にはある。立ち並ぶ竹の間を浮遊する白い何やら、根っこに被さった落ち葉の間からはみ出している黄色い何やら、棄てられた子ども靴の中に居る赤い何やら、筍を掘った穴に収まる青い何やら、散歩する分には物静かだが、ゆっくり縊れるには騒々しい様に思う。するとやっぱり境内のどこかだろうか。それならば断じて承知出来ない。
 お堂の方へ回ると、お賽銭箱の上に鈴の代わりにぶら下がっていた。向こうを向いているけれど、背格好からして中年の男に見える。急いで引き摺り降ろそうと脚を掴み引っ張るが、男の首がどんどん伸びて行くばかりで手応えがない。こちらも意地になり、男の体を抱えて竹藪の方へ走った。随分離れた所からお堂へ振り返ると、お賽銭箱の上にある頭からここまで伸びた首が未だ繋がっている。家から斧でも取ってこようかと考えたが、目を離した隙に有耶無耶にされては虫が治まらない。再び走り出し、林の中へ入った。
 男の体を地面に転がすと、乾いた落ち葉がばさばさと羽毛の様に舞い上がった。林の外へ伸びている首を踏ん付けると、水の通っていないビニールホースの様な感触がした。非常に忌々しく思う。そう感じているのは自分だけではない様で、それ自体が一つの生き物であるかの如くうごめく竹藪のあちらこちらから、何やらが出て来る気配がし出した。(了)