溝から石鹸の匂いがして、見ると真っ白な水が溜まっていた。お向かいさんの家から出ている排水管を通り、後から後から溝に向かって流れ落ちて行く。幾らか温度があると見えて、微かに湯気が立っている。
 自分の肩幅程の広さを持った溝だった。近付いて縁に屈むと、低徊する煙の様な水を縫って五六匹の糸蚯蚓が泳いでいるのが見えた。伸びたり縮んだりしながら懸命になって泳いでいる。
 白い水から逃れようとしているのだろうかと思うけれど、どうもそうでは無いらしい。糸蚯蚓は列になったり散り散りになったりしながら、もっと白い所へ入って行く。
 自分に見られるのが嫌なのか知らと考えていると、糸蚯蚓の居る所へ向かって遠くから波が起こった。波のした方を見ると、溝に溜まった白い水が盛り上がり、それがするすると糸蚯蚓の方へ滑って来る。
 そうしてすぐそこまで来たのでよく見ると、赤く丸い目が二つ付いており、耳の無い兎の様に見えた。はてと思う内に兎は下の方からヤゴの様な口を出して糸蚯蚓を捕えると、そのまま水の中へ沈んで見えなくなった。(了)