流連

 昨夜の嵐で川が大分荒れていると言う。既に二三人流されたそうだから、私は教員の南さんと一緒に辺りの見回りへ出た。
 川へ向かって歩く途すがら、
「こう言った日には必ず、川に呼ばれる者がありますからな」と言うから、
「河童か何かでしょうか」
 南さんは腰を叩きながら、
「あれだけ増水しとりますからな。河童だって川流れですよ」
 空は輪郭のはっきりとした快晴で、明るい日差しがまともに降りて来て、風に吹かれた形のままになった草木を乾かしている。大きな水溜りの中を見ると魚が泳いでおり、このまま干上がってしまうと可哀想だから川へ逃がしてやりたい気持ちがした。
 向こうからごうごうと音が響き出したので、私は未だ川を直接見た訳ではないが、考えていたよりも大変な事になっているのではないかと思った。
 だんだらの坂を上ると、薄茶色に濁った水が土手の縁いっぱいを恐ろしい勢いで流れているのが見えた。川の流ればかりが激しく浮かび上がり、周りの景色は何でもない様に静まっている。
「あんまり近付いちゃいけませんよ。流されたら我々だってただでは済まない」
「一日で治まるんでしょうか」
「上流に嵐が居着いているそうですからな。なんとも」
 それを聞いて上流の方を眺めると、ずっと向こうの空も雲一つなく晴れ渡っているが、川から何か大きなものがこちらへ流れて来た。
 屋根が付いているのが分かったので、小屋か知らと当てを付けたが、近くまで来たのをよく見るとお神輿だった。
「南さん、あれ」
「おや。おや」
 お神輿は川の流れに乗って、滑る様に私たちの前を通り過ぎて行った。その時に、屋根の上へ人か獣かよく判らないものが蹲っているのが見えた。
 遠ざかって行くのを眺めながら、
「何か乗っていやしませんでしたか」
「ありゃ川うそですな」
「河童じゃなくて?」
「同じ様なもんですがね。さっきのは服を着とったでしょう」
 何かに化けとる所を川に担がれたんでしょうなと言いながら、南さんは上着のポケットへ手を突っ込んで煙草を探している。(了)