有給休暇

 大水が出て仕事に行かれないので、朝食を取ってしまうともう何もする事がなくなってしまった。
 仕様がないから一人でスプラッターの真似事をして遊んでいた所、友人の吸血鬼が訪ねて来た。
「血のにおいがしたのだ」なぞと言うなり人の血を啜り出すのを見て、
「外の塩梅はどんなだい」と訊いて見ると、口許を拭いながら、
「結構凄いよ」と言った。
 そうして二人になったのでモノポリーをやっていると、部屋の窓を叩く者がある。
「どちら様」と訊いて見ると、
「俺、俺」と言った。友人のろくろ首だった。
「首だけで来たのかい」
「うむ。ちょっとこれ、一人で観るのこわいからさ」
 首にぶら下がった袋を取ってやり、中を覗くと『実録! 禁断の館5 ~視聴者投稿スペシャル・呪いは実在した~』と表に書かれたDVDが入っている。
「またいかがわしいビデオかな」
 吸血鬼が横から言うので、
「いかがわしいビデオだね」と応えた。
 押し入れから埃を被ったプレステ2を出して来て、三人でDVDを観た。大層おそろしい内容だった。中でも古びたお屋敷の薄暗い渡り廊下を行ったり来たりする犬の映像が総身のささくれ立つ程おそろしく、ろくろ首はとんでもないものを持って来てくれたと思いながら、「これはフェイクでしょ」と言う吸血鬼の震えた声を聞いた。
 DVDも佳境に差し掛かり、息の詰まる様な思いで画面へ釘付けになっていると、ろくろ首がいきなり「あ。マジか」と言った。
「どうした。今の女はこわかったね」
「いや。これ、俺の首、痛てて」
 見ると縮んだ様な顔をさせてくねくねしている。
「攣ったのかい」
「いや。なんか、俺の首、誰か噛んでる」
 窓の外へ伸びた首を辿って遠くを眺めて見ると、水でひたひたになった町が日射しを照り返して眩しかった。ろくろ首の真白い首筋が向こうまで細々と流れているが、その途中に小さい光りものが二三ぶら下がっている。
「大方魚だろうね」
「マジか。ちょっと誰か、取って来てよ」
「俺が行こうか」と言って吸血鬼がマントをばたつかせた。
「頼む」
「血が出てたら、ちょっと吸って良い?」
「良いから。良いから早く取って来て」
 相変わらず痛がるろくろ首を眺めながら、この度は小さい魚だったから良いが、これがわいらや何かだったら大変だろうと思う。(了)