手紙

 二月十九日

 親愛なる友へ

 君に対して、決まりの文句でもって前置くのは止そう。親しき中にも礼儀ありと言うが、それが君に対する僕なりの礼儀だ。
 なぜ突然、こんな便りを寄越したのかと言うと、君に聞いて欲しい事があるからだ。決して相談に乗って欲しい訳じゃない。僕は確かに今、何らかの問題を抱えているのかも知れないが、その解決法を君に求める程差し迫ってはいないつもりだ。自分の事は自分で何とかするから、安心して欲しい。しかし、こんな事を話せるのは君しかいないのもまた事実なのだ。僕はこれを君に宛てて書く事で状況の整理としているから、返事は要らないし、読んでくれなくとも一向に構わない。
 妻が彼女の友人から引き取った仏像が、そもそもの発端だろうと僕は当てを付けている。仏像と言っても、君の目にも有難い物には映らない筈だ。頭は男性器、体は羽を抜かれた七面鳥、六つもある手足は虫。それが大勢の人間が折り重なった台座の上に座っている。全く下らない、お話にならない俗物さ。しかしその大きさが問題で、僕の家の天井に着きそうな程だ。外に置き場がないから一先ず仏間に置いているが、ご先祖様達もさぞ困惑している事だろう。
 仏像が家に来てからだと思うのだがね。来年小学校へ上がる息子が居るのだが、そう、翔さ。僕が仕事へ行っている間に、翔が家に妙な連中を連れて来る様になった。妻が言うにはね、翔と同年代の友達らしいのだが、家へ上がるなり仏間へ入って出て来ないそうなんだ。妻も、折角友達が来ているのだから、飲み物なりお菓子なりを持って行くだろう。そうすると、仏間に居る者は皆々、額を畳に擦り付けて仏像を拝んでいるらしい。あろうことか翔も一緒になってね。君も知っての通り、妻は気が弱いから声を掛ける事も出来ない。だから放って置く事しか出来ないのさ。帰り掛けに話をして見るとね、翔の友達は揃って礼儀正しいそうだよ。あのご神体はまこと神聖であらせられますから、奥様もどうぞ大切にして下さりますよう、だとさ。結構な教育を受けているとは思わないか。