珊瑚の様に広がった、硬く、細い枝を伸ばす、背の低い樹の中に立ち、手許の枝を指で摘んでは、折っている。その音だけが聞こえる。割り箸を割る音に似ているが、少しばかり潤んでいる。霧が頭の上から降って来る様な心地がする。
 向こうから死んだ弟が来た。死んだなりのままだから、小さい。こちらへ近付こうとするが、枝が邪魔をして先へ進めないらしい。弟は泣き出した。しかし声は聞こえない。仕舞いに地面へ蹲り、丸くなって眠った。そうして夜になった。
 高い所でほうき星が光る度に、白々とした明かりが弟の背中を辷った。艶があり、大きなそら豆が転がっている様に思われた。
 お日様がどこかに顔を出し、辺りが開けて来ると、丸くなった弟の背中から、芽が出ているのが分かった。本当にそら豆になったのだと思うと、私は悲しくなった。弟は母親に殺された。土間で首を絞められて死んだ。私は魚を獲りに行っていたので、死ななかった。弟は魚が嫌いだったから死んだ。そうしてそら豆になった。
 枝を折る度に、芽は少しずつ伸びて行く。葉を付け、蔓となり、どこまでも伸びて行く。私の居る樹に絡み付き、段々と一緒になって行く。
 夏が過ぎ、秋が暮れ、冬が明け、春になった。遠くから鳥が渡って来て、私の顔の横にぶら下がっている、弟の付けた実を啄むと、またどこかへ渡って行った。(了)