パーティー

 サイがパーティーをしようと言いますので、なんのパーティーやらてんで見当がつきませんけれど、ムササビにはほかに用事もありませんでしたから、しようしようといいかげんな返事をかえしております内に、サイの方でも自分がなにを言っておりましたのか、すっかり忘れてしまったようでした。

 冬の深くなりかけたちかごろは、雪がふったり、ふらなかったり、みぞれがふったり、ふらなかったり、あられがふった事はないように思われますけれど、さむいのはいやだねとムササビはぼんやりしながら、そのような事を考えておりました。
 そうした日々の明けくれが、おもちのようにゆるゆると伸ばされておりましたから、お日がらのよい今日のような日はたいそうめずらしく、ムササビは自分のねぐらから出てみるつもりになりました。

 空の青い色が鉄ごうしをすかしてすみわたっております。
 こうしのさびてくずれた所から、ムササビは鉄の冷たさに体を小さくさせながら外へ出ました。
 まわりを見ますと、今しがた出てまいりましたような、こうしのはまった穴ぐらがいくつも口をあけております。
 よちよち歩きで道を歩いておりましたけれど、はい色の石でできた道はやっぱり冷たいものですから、しもやけになったらいやだねと、ムササビは道のはずれの草むらへまぎれる事にしました。

 そこいらのにおいをかいだり、からっぽの穴ぐらをのぞいたり、好きなようにごそごそやっておりました所、むこうの広場からクジャクの声がきこえてきました。
「かざりになるものを探さなきゃ。」
「うん。そうだね。」
 こたえたのは、どうやらアライグマのようでした。
「ケーキはどんなのがいいかな。」
「世間じゃ、あおさがはやっているらしいよ。」
「あおさってなんだい。」
「海のいきものさ。」
「海というのは、あの青くて大きい。」
「そうそう。青くて大きな。」
「それはこわいね。」
「うん。こわいかもしれない。」
 ムササビは気がつかれないように、ものかげからそっと広場をのぞいてみました。
 かれたふんすいのそばに二人はうずくまって話をしております。
「海がとくいなのも、いただろう。」
「そんなのがいたっけね。」
「クマとか。」
「白いやつかな。」
「うん。白いやつ。」
 そのようなものが近所にくらしておりましたのを、ムササビははじめてきいたものですから、ひとつ行ってごあいさつをしておこうかという気になってきました。
 けれどもあそこの二人にたずねるわけにはいきませんでした。アライグマにかりっぱなしの松ぼっくりを、ムササビはまだ返したくはなかったからです。
 松ぼっくりを両手に持ってゆすると、中でころころといい音がなりますのを、ムササビはとても気に入っておりましたので、できる事ならこのままうやむやにしてしまいたかったのです。

 広場からはなれながら、穴ぐらをのぞいて回っておりますと、ほかの所よりもずいぶん大きな穴ぐらの中で、トラがまっ白のはらを出してころがっておりました。
「白いクマなら、あすこのつじを曲がった所のつき当たりにいるよ。」
 ムササビがこうしのむこうからたずねてみました所、トラははらにぽりぽりと爪を立てながら言いました。
「あおさ、てえのがよくわからないがね。わさびならきいた事がある。おれはわさびを食ってみたいね。あれも水の流れる所にできるそうだよ。むかしの人はめしを食ったあとに、いつもあれで口をきれいにしたらしい。」
 おくからトラのおかみさんが出てまいりまして、
「あおさ、ともうしますのは、あんた、海のいきものでごさいますよ。こないだなにかの本で読みましたわ。ひとりでにゆらゆらするんですって。」
 トラは小さくすわりなおしますと、
「おまえの話をきくと、おっかなくていけないね。どうも。」と、目をつむって体をぶるぶるとふるわせました。
 
 目の前の草がなびいたのを見まして、ムササビは風が吹いたんだろうと思いました。
 風に乗ったら楽ちんだろうけれど、こんな冬の風に体を広げるのはいやだねと、丸くなりながら考えておりました。
 空から降ってくるようなやわらかい風でした。
 こういった風のあとには決まって雪がふりました。
 鼻のさきっぽに小さな冷たさがとまりますと、もう辺りいちめんは花びらをちらしたような本ぶりとなっておりました。
 ムササビは道に出ました。
 足もとがいきなり冷えてきましたけれど、おかまいなしに空を見上げますと、鼻をくんくんとならしながら雪のにおいをかぎました。
 あちこちに走るひびわれや、文字の消えかけた立てふだや、頭からくずれそうな建物の上に、雪はうっすらとかぶさるようにつもっていきます。
 いつの間にか自分にもつもった雪をはらいますと、ムササビは歩きはじめました。

 道すがら、通りすぎようとした穴ぐらから、こうしの間をぬってダチョウが頭を出しました。
「サイが君を探していたよ。」
 変な事を言うねと思っておりますと、
「彼の言う所によると、君はばんこくきのかかりらしいね。」
 ますますわかりませんので、ムササビはだまってダチョウの顔を見つめておりました。
 長いまつげが雪にふられてさとうのおかしのようです。
「なんでも、足にかたっぽのひもをくくりつけて、はたをひらきながら飛んで行くそうじゃないか。おどろいた。そんなことをすれば、そりゃあもうみんな大よろこびさ。」
 ムササビはびっくりしました。
「おおかた、そのだんどりりをしたいんだろうよ。早く行っておやんなさい。私も楽しみにしているから。」
 行きたくなぞありませんでしたが、ムササビはサイが好きでしたので、これきりになってしまうのもいやだねと思いました。
「さっきここを通りすぎて行ったからね。ほら、むこうのつき当たりに大きな穴ぼこがあって、白いクマがいるんだけれどね。彼にもなにかさせるつもりなんだろう。」

 サイの言う事は、たしかに自分がむいている事ではあるけれども、やっぱりそんな事はみっともなくてできやしないねと、ムササビはよちよち歩きをしながら考えておりました。
 かたく、冷たい道のまんなかを歩いておりましたので、ムササビの通ったあとには雪のひきずられた一本すじがずっとむこうまで伸びておりました。
 そうして一人がいろいろの気がかりをします内に、とうとう白いクマの穴ぐらまでたどり着きました。
 こうしはありませんでしたけれど、かわりにほかの穴ぐらよりもずっと深いらしく、ちょっとのぞいたくらいでは底まで見る事はできませんでした。
 白いクマに一体なんの用事がありましたのか、もうムササビには思い出せません。
 高くせり上がったふちをようようの思いでよじ登りまして、ムササビは深い穴ぐらの中を身を乗り出してのぞきこみました。
 底の方までまんべんなく、白い、うすい雪がかぶさっているのが見えました。
 クマなんていやしないじゃないかと、ムササビはざんねんな気持ちになりかけておりました所、かべぎわの雪だまりが急に動いたと思うと、クマの形になってふり返りました。
 なにしろとつぜんの事でしたから、そのまま白いクマが近づいてまいりますのを、ムササビはただただながめるほかありませんでした。
 白いクマは変な所で立ち止まりますと、小さな目をムササビに向けてだまっております。
 ムササビもだまっておりました。
 しかし内心では一生けん命になりまして、白いクマに伝えなければいけない事があったはずだと思いをめぐらせておりました。
 ずいぶんながい事、二人は見つめあっていたように思われますけれど、やがて、
「あおさ。」と、ムササビはやっとの事で声を出しました。
「あおさ。あおさ。」
 泣きだしそうな顔でしきりにうったえておりますムササビの言葉を、白いクマはしばらくきいておりました。
 そうして、
「なにそれ。」とこたえるなり、ムササビの倍もあるような大口をあけてあくびをしました。(おわり)